パリで同時多発テロが起きた。またしても罪のない無辜の市民が無差別な暴力の犠牲となった。もちろんフランス国内では憤怒の声が国中に渦巻いていることだろう。凶行に及んだISに対する報復の空爆は激しさを募らせている。目には目を!「この恨み晴らさでおくべきか」。血で血を洗う、血みどろの争いが繰り返されてもおかしくはない。現に歴史はそれを繰り返して来ている。

 この状況の中で、フランス人ジャーナリストのアントワーヌ・レリスさんがフェイスブックに載せた“テロリストへの手紙”はひときわ異彩を放っていた。世界中の耳目を集める大きな反響を呼んだ。レリスさんが今回のテロで最愛の夫人を失った渦中の人で、そして幼いお子さんと二人取り残されてしまった被害の当事者ゆえに、彼の言葉はあまりにインパクトがある。

 そして、その言葉を読んだ者は、ある意味、意表をつかれてしまう。
 普通ならそこに、犯人たちを殺してやりたい、と述べられていても何の不思議もない。
 しかし、そのような“血なまぐさい”言葉はレリスさんの手紙には一つもない。
 どんなにか悔しく、どんなに悲しいかは行間から伝わる。でもそれを、レリスさんは最後まであからさまにされることはなかった。

レリスさんの手紙の翻訳の一部を以下に抜粋する。
『 (抜粋はじめ) ・・だから、決して君たちに憎しみという贈り物はあげない。君たちの望み通りに怒りで応じることは、君たちと同じ無知に屈することになる。君たちは、私が恐れ、隣人を疑いの目で見つめ、安全のために自由を犠牲にすることを望んだ。だが君たちの負けだ。(私という)プレーヤーはまだここにいる。
 
 今朝、ついに妻と再会した。何日も待ち続けた末に。彼女は金曜の夜に出かけた時のまま、そして私が恋に落ちた12年以上前と同じように美しかった。もちろん悲しみに打ちのめされている。君たちの小さな勝利を認めよう。でもそれはごくわずかな時間だけだ。妻はいつも私たちとともにあり、再び巡り合うだろう。君たちが決してたどり着けない自由な魂たちの天国で。
 
 私と息子は2人になった。でも世界中の軍隊よりも強い。そして君たちのために割く時間はこれ以上ない。昼寝から目覚めたメルビルのところに行かなければいけない。彼は生後17カ月で、いつものようにおやつを食べ、私たちはいつものように遊ぶ。そして幼い彼の人生が幸せで自由であり続けることが君たちを辱めるだろう。彼の憎しみを勝ち取ることもないのだから。・・(抜粋終わり)』
 
 強い人だと言う以外ない。これほど強くなれるのはどうしてだろうか?“世界中の軍隊よりも強い”とレリスさんが言われるのは本当だ。嵐の中で、懸命に踏ん張っているレリスさんの足が見える気がする。 (了) 文責;島田真樹