平成25年9月2日(月) ピグマリオンの話

 ピグマリオンという言葉を聞いたことがあるだろうか?教育心理学を学んだ方にはおなじみの言葉だろう。また、塾・予備校業界の関係者ならば、有名な中学受験の超大手塾がこの言葉に由来したコース名などつけているのを目にしたことがあるにちがいない。元はギリシャ神話に出てくるキプロス王の名前にちなんだものらしい。そこから作られた『ピグマリオン効果』という教育心理学用語にあやかって、その謀大手塾は自社のコース名をつけたものと思われる。さて、そのピグマリオン効果とは、別名を『教師期待効果』という。このように訳してくれていると、誠にその意味するところを理解しやすい。その通りで、ピュグマリオン王というキプロスの王が、愛着してやまない自ら彫った象牙の人形がやがて本当の人間になった、という話から、『教師が心から生徒に期待をかけることで、生徒はやがて本当にその期待通りの成長をみせる』ことをピグマリオン効果と呼ぶようになったそうだ。
 
 思い出すのは、子供の頃、かれこれ40年近く前に、少年向け雑誌に『同じ植物の苗を同時に栽培して、一方には毎日愛情を示す言葉をかけて育て、もう一方のグループにはそれをしないで育成実験したところ、愛情を伝えた植物群の方が遙かに充実して成長した』というような内容の記事が載っていた。それを読んだとき、少年だった私でもまさかそれはないだろう、と思いつつも、ひょっとすると植物もこちらの気持ちがわかるのかもしれない、などと思った記憶がある。真実はどうだろうか?おそらくこの植物の実験話は眉唾な気がする。でも、同時にこの時分に、ピグマリオン効果と呼ぶ教育効果に世の中の関心が集まっていたから、つい、脱線して植物まで話がいったのだと推察する。アメリカのローゼンタールという心理学者が“ピグマリオン効果”を世に問うたのが1964年だったというから、まさにそれは上記の自分の少年時代と重なる。

 ピグマリオン効果の反対の意味、すなわち、『生徒に期待するどころか、生徒が悪くて駄目な子だと思いながら接していると、やがて本当にその生徒は悪い生徒になってゆく』、この現象を『ゴーレム効果』というらしい。ゴーレムとは泥人形のことだそうで、この泥人形は、けして人間になることなく、いつまでも泥のままだというわけだ。何か感じのある言葉と思う。こちらが嫌っていると、相手もこちらを嫌いになる、というのと似ている。大なり小なり誰にも身に覚えのあることだろう。磁力線というのか、磁石の力は不思議な力で、目に見えない力であって、でも確かに磁石と磁石が引き合ったり、反発し合ったりする様を誰もが見ることができる。ピグマリオン効果とゴーレム効果は、引き合う磁石と反発し合う磁石の喩えのようだ。

 先生としては生徒と引き合う磁石を胸にしまって生徒と係わってゆきたい。素朴にそう思う。ただそのとき、一つ気になることがある。それは、そのとき、先生は自分自身に何を期待しているのか?だ。自分には何の期待もないが、先生として生徒だけには期待していたい、というのはちょっと弱い感じがする。自分をも期待通りの自分にやがて変え得るパワーが先生にないのに、どんな力が生徒に届くと言うのだろう?まずは先生が自分に本気で期待してからではないか?それがなくては始まらないことではないか?ピグマリオン効果を生み得るのはそういう先生なのだろう。自分を忘れてはいけない。自分に期待しない人物は、本当のところでは他人に期待することなどできない。回りくどいが、生徒を期待できる自分になれるよう、自身にも期待を込めることが先生の第一歩だと思える。(了)